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新型コロナウイルスの感染が拡大する中、利用者が増加している「遠隔医療」。産婦人科での妊婦健診において遠隔医療を支えているのが、メロディ・インターナショナル株式会社が手掛けるIoT胎児モニター「分娩監視装置iCTG」だ。胎児心拍を測定する分娩監視装置を小型化・IoT化したことで妊婦のいる場所に装置を設置し、測定したデータを遠くにいる産婦人科医に送るという使い方を可能にした。同社は香川大学発ベンチャーで、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)にとって京都大学以外の国立大学発ベンチャーも支援可能となった2号ファンドによる初めての投資先企業だ。これまでに2社の創業を経験したCEOの尾形優子氏と、経営企画部CIOの二ノ宮敬治氏に、困難な状況でも諦めずに事業の拡大へまい進できた理由を聞いた。(聞き手:伊藤瑳恵)
京都大学大学院工学研究科を修了後、香川県へ移り、複数の企業に勤めました。ファクトリー・オートメーション(FA)の事業を行う会社で家電製品の検査をしたり、IT系企業で技術営業の仕事をしたりしました。
転機となったのは、IT系企業にいた頃、産学官の事業である「四国4県電子カルテネットワーク連携プロジェクト」に参加したことです。産婦人科の電子カルテにも関わりましたが、事業自体は2年で終了。妊婦さんを救いたいという思いが強くなり、プロジェクトで得られた知見と、参加企業から電子カルテのプロトタイプを買い取り、産婦人科に特化した電子カルテを扱う会社を2002年に立ち上げました。
しかし、なかなかカルテの電子化は進んでおらず、2年ほど売れない時期が続きました。当時、別の会社にいた二ノ宮さんから、「ちゃんと顧客を訪問しないと売れないよ」とアドバイスをもらい、ハッとしました。当時の私は、良いものを作れば勝手に売れていくと思っていたのです。企業に勤めていた時とは違い、自分でお客さんを探さなくてはいけない大変さがありましたが、200件近くの病院やクリニックを回りました。
2002年から香川大学の原量宏教授のチームが新しい分娩監視装置を作るというプロジェクトを始められ、私も参加しました。モバイルの胎児心拍計測計の開発を目指すうちに、妊婦さんを救うには、ゆくゆくは遠隔医療が必要になるのではないかと思うようになりました。そんな時に、試作機として作った胎児心拍計測計をタイに持って行くことになりました。タイのチェンマイでは産婦人科医が不足していて、かかりつけ医としての役割を担う一次病院では産婦人科医がいないという状況でした。そのため、搬送しても手遅れになってしまったり、そもそもいつ搬送するべきなのか判断ができなかったりしていたのです。
試作機を使って胎児のデータを測ってみると、医療機関への搬送が必要な妊婦が50人近く見つかり、そのうち10人は手術を施す必要などがありましたが、全ての妊婦を助けることができました。もっとたくさんの機器が欲しいと言われましたが、当時はわずかな試作機しかありません。製品化をして販売できる体制を整えようと思い、二ノ宮さんとメロディ・インターナショナルを設立しました。
タイで目の当たりにしたように、世界中で、お母さんと赤ちゃんが治療を受けるタイミングを逃して亡くなっています。日本では産婦人科医が減少し、発展途上国では医師が不足している中、簡便に使える胎児モニターがあれば、救える命があると考えたのです。
当初は商品化さえできればいいと思っていましたが、簡単なことではありませんでした。医療機器として認可を取得したり生産できる工場を探したりと、モノづくりの大変さを痛感しました。電子カルテを販売していたからといって道は続いているわけではなく、ゼロからのスタートでした。「遠隔医療はだめ」「夢物語でしょ」と言われた時期もありました。
最初のプロトタイプができた後、製品が売れ始めるまでに、投資をしてもらえない隙間の時期がありました。開発してきたものをいよいよ販売するというときに投資や融資をしてもらえず、まさに“死の谷”の時期でした。
ちょうど困っていた2020年1月に、米国ラスベガスで開催された電子機器展示会「CES2020」に参加しました。まわりからも「今は時期じゃない」という反対もありました。飛行機でラスベガスに向かっていると、本物のデスバレー(死の谷と呼ばれる国立公園)が眼下に広がっていました。「もしかして私たちの状況を表しているのかな」なんて二人で話していました。
ところが、状況はCESへの参加を機に一転しました。出展ブースで声をかけてくれたベンチャーキャピタルから、その年の4月に投資をしてもらえたのです。さらに、CESから帰ってきた後に、ブータンの王妃が出産で利用された事例や北海道大学病院から大規模にオンライン診療に使いたいという打診がありました。ちょうど新型コロナウイルス感染症が流行し始めていて、役員や投資家からは「乗り越えるのは難しいのではないか」と思われていた時期だったので、とても良いタイミングでした。
コロナのおかげで売れるというのは格好悪いですが、コロナ禍になり遠隔医療が進んだことが、多くの人に機器を使ってもらうきっかけになったと思っています。
IoT胎児モニター「分娩監視装置iCTG」を手掛けています。分娩監視装置は、胎児の心拍数の推移と、母体のお腹の張り(陣痛)を測るもので、日本では妊娠28週以降のNST(ノンストレステスト)や分娩中の監視に使われます。iCTGでは、測定データを機器からBluetoothでタブレットやスマートフォンに送ることでコードレスを実現。取得したデータはクラウドサーバーにアップされ、産婦人科医が病院や自宅、外出先などどこからでも閲覧できるようにしました。さらに、離島やへき地、発展途上国などの電気が安定して供給されない環境でも使えるよう充電式を採用しています。
これまでは、妊婦さんと装置、医師が同じ場所にいなくては意味がなかったところを、iCTGを使えば、どこにでも持ち運べてどこからでも診断できる。小さくなってネットにつながるようになっただけのことですが、それによってできることがどんどん増えています。
従来の医療機器のイメージに捉われずに、使いやすさにこだわりました。例えば、充電をするケーブルにはMicro-USB端子を採用しています。Androidのスマートフォンにも使われているものです。これまでの医療機器は、大きくて重くて堅い、質実剛健なものが多く、使用するケーブルも独自の規格が採用されていることが多いです。もちろん、事故が起きるリスクを考えると、独自のケーブルを使用した方が安全かもしれませんが、弊社の製品は“発展途上国でも使えるもの”というのが大きなコンセプトでした。分娩監視装置のために独自のケーブルを何本も購入する余裕がない可能性も考えて、普段から身近で使われているケーブルを採用しました。安全性と信頼性を保ちながら、汎用性があるものにしたいと考えてのことです。
見た目は異なりますが、これまで分娩監視装置を使ってきた人に受け入れられることも重視し、従来のものと同じ方法で装着できるようにしました。装置を持って行って助産師さんに見せると、電源のつけ方さえお伝えすれば、見ただけですぐに使っていただけます。
国内では、病院やクリニックで従来の分娩監視装置と同じように使われているケースが多かったのですが、コロナ禍になり、院内での遠隔医療に使うケースが急激に増えています。据え置き型の分娩監視装置はその場でデータが出るため、感染区域内に妊婦がいる場合は産婦人科医がそこまで行かなくてはならず、機器の消毒などにも手間がかかっていました。そこでiCTGを使って、区域内で測定したデータを送信し、区域外から産婦人科医が見るという方法がとられています。このほか、在宅医療や搬送中の救急車の中、出張助産師外来などで使われたり、タイやブータン、ミャンマーなど13カ国にも提供したりしています。
いずれは、直接妊婦さんに機器を貸し出すB to Cサービスも展開したいと思っています。妊婦さんがかかりつけの先生に診てもらいやすくするためにも、国内では市場のシェア20%を目指していきたいです。
発展途上国など医師が不足している場所では、iCTGで得られた膨大なデータが1人の医師に送られてしまい、全てに目を通せない可能性があります。心拍を解析する技術を使って、本当に目を通す必要のある症例だけを識別できるようなサポートができればと思っています。
起業をすれば、大変なことがたくさんありますが、前向きに頑張っていれば、必ず助けてくれる人が現れます。私は、悪いことはあまり考えないようにしていました。2度目の起業でうまくいかなかったときは、「最初の起業でもしばらく売れなかったのだから、今の時期は売れなくても仕方ない」と思っていました。
幸運の女神は前髪しかないといわれますが、私たちも、絶対うまくいくと思ってやっていたら良い結果ばかりが得られました。「理想的なことをやっているのだから必ず良い結果が得られるに決まっている」という香川大学の原先生のお言葉も大事にしています。成功したイメージを抱くことが大切だと感じています。
(2022年4月取材。所属、役職名等は取材当時のものです)
お腹の中の赤ちゃんが元気に生まれて欲しい。これはお父さんとお母さんの世界共通の願いです。妊婦健診や分娩時に赤ちゃんの健康状態を知るために胎児心拍を測定する装置は大型・有線で、医師・妊婦・装置が同じ場所に集まることが常識でした。メロディ・インターナショナル株式会社の装置はその常識を覆し、小型・無線でどこでも測定できるため、世界の周産期医療に革新をもたらす製品になると期待しています。
森田 諭
メロディ・インターナショナル株式会社 ウェブサイト
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