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漁業・水産業は今、大きく変化している。「海洋資源は有限である」という考えのもと、サステイナブル=持続可能な漁業を目指して、世界の潮流は「管理漁業」へと向かっており、日本でもその取り組みが始まっている。2019年4月、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)の支援を受けて、サステイナブル漁業・水産業の仕組みを創出することを目的に、株式会社オーシャンアイズが設立された。同社ではすでに、海洋・水産業者のニーズに応じた受託型サービスの「SEAoME」(しおめ)や、漁業者が操業現場でタブレットから海況や漁場予測の情報を引き出せる「漁場ナビ」のサービス運用をスタートしている。サステイナブル漁業実現を目指すさまざまなチャレンジについて、代表取締役社長の田中裕介氏と取締役の笠原秀一氏(京都大学学術情報メディアセンター特定講師)に聞いた。(聞き手:郡 麻江)
2010年から、RECCA(気候変動適応研究推進プログラム)で、アカイカを対象に温暖化に伴う漁場・水産資源の変動の推定や、その適応策に必要な情報提供を目的とした研究に取り組んできました。その後、私が国立研究開発法人海洋開発機構(JAMSTEC)と京都大学を中心とするCREST(科学技術推進機構[JST]の戦略的研究推進事業)の『FISH TECH(フィッシュテック)によるサステナブル漁業保全の構築』という研究に、JAMSTECの代表として参加したことがきっかけで、起業へという流れになりました。まずJAMSTECでRECCAの研究結果の社会的実装化に取り組んだのですが、なかなか大変でした。
社会的実装化とは、研究成果を、漁業者さんはじめ、一般の方に使っていただいて、実際に社会に役立てていくことなのですが、そのためには技術移転や、ライセンスなど諸々の手続きが必要となります。その受け皿となるような、技術的、あるいは学術的な背景をもった会社なり、機関が不可欠なのですが、既存の企業さんでは、今回、CRESTでやろうとしている技術やテーマを受け入れてくれそうなところがなかなか見つかりませんでした。
だったら、自分たちで受け皿となるところをつくるしかないということで、2019年4月1日、私たち自身が起業するという流れになりました。実際に起業してみて、研究成果を自らの手で実装化することは、今後、研究者自身が関わっていくべき大切な課題だと実感しています。研究をしてそれで終わり、ではなく、そこからさらに広げていく思考と実践力が求められていくと思います。
私自身、ずっと研究畑を歩んできたので、社長になることを決断することが最も難しかったです(笑)。本当に私が適任かどうか、かなり悩みましたが、笠原さんのような経営や実務のプロフェッショナルと組めるのなら…と、チャレンジすることにしました。
実務面で最も頭を悩ませたのが「チームビルディング」でした。実装化の開発スタッフをはじめ、マーケティング、財務、人事など、研究ベースの起業であることをよく理解した上で、動いてくれる人材を集めるのは難しいですね。新技術をユーザーにお届けする“プロダクト”として「サービス化」できる、プロダクトマネージャーなど、実装化のためのスキルを持った人材育成は今後、ますます必要になると思います。
一番の大きなメリットは、研究成果を自社内で直接、製品開発に結びつけられることですね。製品化して、課題を研究にフィードバックして、研究成果をもう一度、製品にフィードバックさせる。そういうことをダイレクトに行いながら、研究開発チームと実装化チームが手を携えて、プロジェクトを推進できるのが何より面白いし、やりがいがあります。
まだどこにもない新規開発の技術を持って、マーケットに参入できるのは最大の強みだと思います。海水温度や潮流の状況まで詳しい海況データを提供できる公的機関や民間企業は世界でも希少ですし、その中の1つが弊社ということになります。
まず、「漁場ナビ」は、気象衛星「ひまわり」の海水表面温度データを深層学習によって補完し、雲による欠損のない海況情報を、準リアルタイムで漁業者さんはじめユーザーに届けることができます。漁業者さんはタブレットを漁船に持ち込んで、最新のデータをもとに漁場を決定できます。「SEAoME」はもう少し広い範囲の顧客を対象として、水産業や海洋土木を手がける企業に向けての受託型サービスとして、特定地点の時系列予測や、赤潮・急潮をはじめとした沿岸から外洋までシームレスな海洋環境情報を提供します。
黒潮などに代表される海流の動きは、どこにいけば魚がいるか?という漁業者さんとって非常に重要な情報と直結しています。例えば、黒潮や親潮がぶつかる三陸沖が好漁場として知られているように、海流は良い漁場を生み出します。また、養殖漁業に役立つデータ提供も積極的に行いたいですね。漁業者のニーズに沿った情報を、精度を高めて、ユーザーにタイミングよく提供していくのが我々の大きなミッションです。
今後、漁業の世界は「獲れるだけ獲る漁業」から、「決められた量を効率的に獲る漁業」へとシフトしていくでしょうし、ベテラン漁師さんの「勘と経験」に頼る漁業から、データを活用する効率的な漁業への転換も同時に求められていくと思うので、「漁場ナビ」や「SEAoME」へのニーズはますます高まっていくはずです。
今後は海外への展開も積極的にしていきたいです。気象衛星「ひまわり」の対象エリアはASEAN諸国からオセアニアにかけてなので、このエリアをまず、攻めていきたいですね。国内向け、海外向けとソリューション開発が二本立てになりますので、その体制整備を早急に進めたいです。併せて、収益を1日も早く上げられるよう、営業やPR活動にしっかり取り組んでいきたいと思います。
遠洋漁業の船にも役立つよう対象エリアを広げていく仕組みや、特定魚種の漁場予測などの技術開発にすでに取り組んでいます。現場で魚を獲るために海を見る漁業者さんと、研究対象として見る私たちとは、同じ海を見ていても全然違う視点で見ているんですね。海面の下は見えませんが、この見えない世界にすごい可能性を秘めていると思います。漁業者と研究者の二つの視点をうまく融合させることで、新たなアイデアを探っていけると確信しています。
海洋水産の世界はまだ認知度が低いマーケットなのですが、シード段階での出資は何よりありがたいことです。また、支援の目的や業務の推進状況の確認など、節目節目でご助言をいただいているのですが、そういったメンター的な機能も非常に的確で、心強いです。1年〜1年半ぐらい後に、次の投資が必要になってくるので、そこに向けた連携をぜひお願いしたいです。
今、どの研究プロジェクトでも求められているのが『出口戦略』です。研究成果の社会的な実装化は思っているほど簡単ではありませんが、それだけに、研究者もしっかりとした出口戦略の発想を持つべきですし、それには起業するという選択肢もぜひ、視野に入れてほしいと思います。「技術もわかって経営もわかる」という人に自分自身がなるのもいいし、それぞれ得意分野を持つ仲間を若いうちから探していくのもいいでしょう。好きな世界があって、目指すものがあるのなら、起業することは夢の実現への近道になると思います。ぜひ、チャレンジしてほしいです。
(2020年9月取材。所属、役職名等は取材当時のものです)
機械学習と物理シミュレーションという異なる分野で共同研究している研究者が、そのままタッグを組んでスタートアップ企業まで立ち上げてしまいました。
インタビューからは経営にご苦労されている様子がうかがえますが、研究での議論の雰囲気をそのままに経営課題についても議論されている様子はまさにスタートアップ企業のイケてる経営チームです!
四本 賢一
株式会社オーシャンアイズ ウェブサイト
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