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「船出」ストーリー

【特別版】EIR-iCAP第1期生のスタートアップが誕生<前編>

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  • ライノフラックス株式会社
【特別版】EIR-iCAP第1期生のスタートアップが誕生<前編>

京都iCAPが進めるEIR-iCAP(EIR:Entrepreneur in Residence、客員起業家)の第1期生として、2023年2月から京都iCAPに在籍していた間澤敦氏が、2024年4月にライノフラックス株式会社を設立した。同社は、京都大学大学院工学研究科の蘆田隆一講師が発明した新規発電技術を基礎に、「発電するほどCO₂排出を減らせる」発電装置の開発を行うエネルギースタートアップだ。 今回は「船出ストーリー特別版」として、ライノフラックス株式会社 代表取締役CEO間澤敦氏と、京都iCAP 執行役員・投資第一部部長 八木信宏との対談を、前編・後編の2連載でお送りする。 前編では、EIR-iCAPから初の創業者となった間澤氏に、EIR-iCAPの1期生として起業できたことのメリットや、後に続く人たちのために改善できることは何かなどを語っていただいた。
(文:山本洋二)

EIR-iCAPの1期生として記念すべき最初のスタートアップ

八木

まずは、改めて創業おめでとうございます。2024年4月の起業から半年が経ちましたが、現在の状況はいかがでしょうか。

間澤

はい、2024年4月にライノフラックス株式会社を起業し、その後8月までは、京都iCAP内で、スタートを軌道に乗せる業務に取り組んでいました。起業にあたっては、EIRとして過ごしたときの経験がたいへん役立ちました。例えば、京都iCAPには様々なスタートアップの社長の失敗例や解決例などが蓄積されていますので、いまCEOとして同じような課題に直面したとき、どうすればいいのかの参考になります。そういう面では、いい材料を持ってスタートできたと思っています。

 

間澤敦 株式会社ライノフラックス代表取締役CEO
間澤 敦 株式会社ライノフラックス代表取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒業。三菱商事(株)にて金属資源の貿易や新規事業開発を経験の後、2019年からは同社のコーポレートベンチャーキャピタルにて資源・エネルギー領域におけるスタートアップ投資を担う。2023年2月より京都iCAPにEIRとして参画。
八木 信宏 京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)執行役員・投資第一部部長
八木 信宏 京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)執行役員・投資第一部部長
2016年京都iCAP参画。産官学の研究所での教育研究歴と大手製薬企業での事業開発ライセンスの経験を有し、大学発ディープテックの組成を得意とする。Ph.D。

八木

いい材料を持ってスタートされたのならよかったです。いまは、まるで親みたいな気持ちで見守っていますよ。
さて、間澤さんには、EIR着任当初にEIR-iCAPの三つの眼目をお伝えしました。一点目は、「事業内容は何をやってもいい」です。これは事業テーマを縛らないことで、起業家のモチベーションや推進力に期待するということでした。二点目は、「事前に京都iCAPの株式の持ち分は決めない」です。そして、三つ目は、「キャピタリストとして仕事をしてもらいます」でした。起業されたいま、この三つのフィロソフィーをどう考えるか、どう感じているかを教えてもらえますか。

 

間澤

まず一つ目の、どんな事業をやってもいいというのは、私の人生にとっていい機会になったと思っています。いまの発電技術での起業を決意するまでに、量子コンピュータの技術や月の水資源を探査する技術など、京都大学のさまざまな技術を見せてもらいました。世の中はこんなに素晴らしい技術で満ちているということを知り、その中から検討して、最後に“これだ”と決めました。いま、この自分で決断したということが、大変なことがあったときや、うまくいかないときでも、最後の踏ん張りになっているところがあります。ですからこのプロセスはとても良かったですし大事なことでした。
二つ目の株式の持ち分を決めないということは、表面的な部分と本質的な部分があるのですが、表面的には、起業してすぐに株式の持ち分を決められるような不条理がないのは良かったです。しかし、重要で本質的なことは、最初に誰からの投資を受けるかを、自分で決定することができるという点でした。もし、京都iCAPの株式の持ち分が決まっていたら、それを考えるプロセスを放棄していたと思います。この会社を成長させるために、どういった株主を迎え入れて何を期待するのか。それが将来的な成長にどう直結していくのか。最初に船に乗るメンバーを自分で決める船長として、誰からの資金調達を受けるのかを考えることができたということはとても意義があることでした。
三つ目のキャピタリストとして仕事をするという点は、いまになって役立っています。スタートアップのような不確実な世界では、ロジカルに演繹的な答えを導き出せることはあまり多くはないです。実際には、事実から結果を導き出すような、帰納的なアプローチにならざるを得ません。帰納的なアプローチで重要なのは、サンプルをいかに知っているかということです。その中で、キャピタリスト業務を通じて、冒頭で申し上げたように、様々な会社の失敗や解決の情報をたくさんデータベースとして持つことで、何かを判断する時の一つの材料になるということはとても重要でした。どこまで実務に活かせているかは不明ですが、CEOとしてはとても良いガソリンになっていると思います。

八木

さすが間澤さん。その答えを聞いて安心しました。ライノフラックスは、盤石だと思いました。

 

間澤敦

将来の課題はEIRのラベル力

八木

EIR-iCAPに何があればもっと起業がしやすくなるか、あるいは自信が持てるかという観点で、今後の改善点などがあったら、お伺いしたいです。

間澤

そうですね。難しい質問ですが、強いて挙げるのであれば、起業するときに、もう少し下駄を履けるとよかったかなと。京都iCAPや京都大学がたくさん持っている、これまでの実績や、ネットワーク、信用といったものは昨日今日起業したスタートアップにはありません。素性の知れないスタートアップが一番欲しいのは、信用であり実績であって、この部分に下駄を履かせることができたらいいと思いました。会社をつくる部分でのサポートはすごくしていただけたし、吸収するものもたくさんありましたが、せっかくEIRになれたのであれば、そのような蓄積の上に立ってスタートを切れると、もっと船が漕ぎ出しやすかったかもしれません。EIR-iCAP出身起業家に、著名なプロデューサーがメジャーデビューさせた新人のようなイメージができると、本気で起業したい人が集まってくる流れができると思いました。

八木

そうですよね。起業して間もないときは、みんな無名の新人です。その時に京都iCAPや京都大学出身というラベルが水戸黄門の印籠のようになるといいというのはすごくよくわかります。例えば、事業会社へ突然コールドコールをするより、先に我々が口添えできるかもしれません。京都大学のOBも大勢いらっしゃるし、共同研究してくださっている企業もたくさんありますから。それがサポートとして非常に効果的であれば、積極的にやっていくべきだと。そういう活動があってこそラベルが有効になっていくのだと思います。それと同時に、ニワトリが先かタマゴが先という話になってしまうのですが、EIR-iCAPというラベルが、もっともっと輝いていくために、ぜひ間澤さんに、ラベルを輝かせるための一翼を担っていただきたいと思います。

間澤

今後EIRとして出てくる案件が羽ばたいて、京都iCAP出身のEIRの案件って筋がいいよねって思われること。それは、自分たちの実績が出れば自ずと実現に向かうかもしれないというのは、いま話しながら思っていました。

八木

そういう面からも、EIR-iCAPは、ビジネスリテラシーをもっと養っていくことが重要だと考えています。大学発ということもあり、どうしてもサイエンスリテラシーが重視されがちですが、スタートアップをイグジットした人たちにアドバイザーとして、あるいは失敗した人たちにも参画してもらって、サイエンスとビジネスのバランスをしっかり取った組織として、EIR-iCAPの底力を上げていきたいですね。

間澤と八木が歩く

このインタビューは、NEDO「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業(MPM)」にて実施しました。

(2024年11月実施。所属、役職名等は取材当時のものです)


EIR-iCAP担当者より

EIR-iCAP一期生として京都大学発スタートアップを立ち上げられた間澤さん。起業家の鏡のようなインタビュー記事ですが、EIR活動期間中はハードシングスの連続で顔色の悪い日も沢山ありました(笑)時には社内のキャピタリストと対峙し、時には先生と重苦しい話をぶつけ合い、苦難の果てにできたライノフラックスという作品の未来を、京都iCAP一同心から応援しています!

京都iCAPでは間澤さんのような挑戦者を随時募集していますので、お気軽にお問い合わせください!

菅野 流飛
菅野 流飛

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ライノフラックス株式会社

ライノフラックス株式会社 ウェブサイト

https://rhinoflux.com/

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