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モバイルデバイスや電気自動車(EV)の普及、データ処理装置を置くデータセンターの拡大にともない、電子機器から発生する熱への対策が大きな課題となっている。電子機器にとって発熱は故障や劣化、発火事故につながる深刻な問題。現在、放熱のためにさまざまな冷却システムが使われているが、消費電力が増大し環境への負荷が問題視されている。この熱問題を解決する新素材「Thermalnite(サーマルナイト)」を開発したのがU-MAP。名古屋大学の研究室から誕生したスタートアップだ。代表取締役の西谷健治氏はこの素材を武器に、世界の熱問題の解決に挑戦する。
(聞き手:田北みずほ)
パソコンやスマホなどの電子機器は熱を発しますが、その熱は機器のパフォーマンス、寿命、安全性の低下を招くため、効率的に放熱することが重要です。熱を逃がす工夫はさまざまあるのですが、当社は部品に使用する素材によって放熱効果を高めることに取り組んでいます。当社が開発した「Thermalnite」は窒素とアルミニウムの化合物でファイバー状になったものです。セラミックスや樹脂などの部品材料に添加することで素早く熱を逃がします。窒化アルミニウム自体は、電気を通さず熱だけを通す素材として注目されています。セラミックスや樹脂材料への添加剤として、パウダー状の素材が以前から使われていますが、8割以上混ぜないと熱伝導率を高めることができません。しかしThermalniteは部品材料に混ぜる量が2割程度と、非常に少ない量で熱伝導率が上がります。ファイバー状なので、熱を逃がすネットワークが構築されるからです。熱伝導率が高いだけではなく、部品の強度も高めることができるのも特長です。
現在、Thermalniteの製造販売、Thermalniteを添加したセラミックス基板、樹脂シートの製造販売を事業としています。
当社は名古屋大学教授の宇治原徹(取締役CTO)と半導体関連装置企業に務めていた前田孝浩(取締役COO)が2016年に創業しました。Thermalniteは宇治原研究室で半導体の材料研究をしていたときに、たまたまファイバー状の窒化アルミニウム単結晶ができて、これは熱問題に使えるかも、というところから研究開発が始まったんです。前田が務める会社の社長の強い勧めがあって2人で起業に踏み切ったわけです。
僕は名古屋大学で宇治原研究室に所属していたんですが、マーケティングや企画に興味があったため、卒業後は地域大手のスーパーマーケットに就職していました。3年ほどたったとき、宇治原先生から「楽しい事業を始めるんだけど来る?」と誘われて「楽しいなら行きます!」って割と簡単に決めました(笑)。宇治原先生が声をかけてくれたのは、僕が研究室のイベントやワークショップの企画をよくやっていたことが影響しているかもしれません。僕としても、宇治原先生はやると決めたら必ずやり通す人ですから、安心して飛び込むことができました。務めていた会社の方々も「そんな機会はなかなかないのだから」と快く送り出してくれました。
いえ、学生時代は太陽電池素材の研究をしていたので、この素材のことはあまり知らなくて。その当時は、新しい技術によってできた素材を社会実装するための会社という点に興味を惹かれてジョインしました。
Thermalniteをサンプル販売している段階です。材料メーカーを中心にひたすらアタックしていましたね。企業の反応は非常に良くて、手応えがありました。100社ほど商談して40社がサンプルを買ってくれました。Thermalniteの売価は、既存の放熱素材と比べてかなり高額だったんですが、それでもほしいと言ってくれる会社があった。それほど熱対策は企業にとって課題が大きいのだと実感しました。
はい。「Ultimate Material Processing」という意味で名づけたと聞いていますが、元々は「Ujihara Maeda Paradise」だった、という噂もあります(笑)
資金調達ですね。設備投資や研究開発を進めるには莫大な資金が必要だったのですが、素材メーカーならではの難しさに直面しました。素材メーカーは事業が軌道に乗るまで時間がかかるので、興味を持ってくれる投資家が少ないんです。素材関連のスタートアップは過去に失敗したケースも多いようです。 それから、素材はものづくりの川上。仮に部品メーカーがこの素材を使いたいと言ってくれたとしても、その先のアッセンブリーや最終製品を製造する企業がOKするかはわからない。本当に買ってくれる企業があるのか、そこが見えにくいんです。
この資金調達によって設備投資が進みました。工場に大型炉を導入しThermalniteの量産体制ができました。2024年1月には1台を稼働させ、2026年までに3台に増やします。
顧客開拓という点では、Thermalnite自体を製造するだけではなく、セラミックス基板とシートの製造にも着手しました。Thermalniteを使ったセラミックス基板や樹脂シートを作り、データで放熱効果や強度の高さを示して可能性を提案するなど、熱問題を抱えている電機メーカーに直接アピールすることを意識的に行っています。2024年11月には岡本硝子さんとの資本業務提携でセラミックス基板の量産体制がスタートしています。熱問題は世界的な課題なので、海外にも大きく打って出たいと思っています。
当社には宇治原研究室をはじめ、マテリアルを研究してきた名大出身者もいますが、求人サイトを通じた募集も好調です。材料関連のスタートアップは少ないので、そうした企業でチャレンジしたいという方の注目度は高いようです。
特に子育て中の女性が活躍しています。大手自動車部品メーカーなどでキャリアを積んで、出産を機に退職した方が多く、驚くほどスキルや能力が高いんです。そうした方たちにもっと来てもらいたいと思っているので、フレックス制を導入するなど、ワークライフバランスを考慮した働き方ができるようにしています。男性社員の育児休業の取得も推進していて、1か月くらいは取っています。
初期のころは、特に特許関連の相談に乗ってもらいました。知財のことがわかっていなかったので、定期的な特許調査や弁理士の必要性などを基本的なことを教えてもらえたのは非常に助かりました。出資して終わりではなく、キャピタリストがずっと伴走してその都度的確なアドバイスをくれるのでありがたいですね。
電子機器をはじめ、熱の問題は世界的に深刻化していますので、どんどんそこにコミットしていきたい。既存事業をしっかりと構築して利益率を高め、2028年にはIPOを目指します。
分野としては、やはりデータセンターのマーケットに入っていきたいですね。データセンターは世界各地で増えていますが、消費電力の4割がサーバーの冷却に使われるほど電力消費が大きいことが課題になっています。当社の素材で省エネルギーに貢献したい。さらに将来的には熱利用や排熱の再利用にも手を広げていきたいという夢も持っています。
最近強く思うのは、僕らはいろんな人に助けてもらってここまで来ているということ。それはなぜかといえば、熱問題のような課題に対して新しい技術で挑戦する、その姿勢に対して協力してくれるのだと実感しています。ディープテックが注目を集めていますが、ディープイシュー、何を解決するのかというところも同じくらい大事だと思っています。だからこそ、難しい課題、高度なことに挑戦していく姿勢は持ち続けないといけない。これから起業を考えている方も、真摯に取り組む姿勢を崩さずに進めば、いろいろな人が応援してくれるし、実現の確率も上がる。そこが大事かなと思います。
(2024年12月取材。所属、役職名等は取材当時のものです)
半導体集積回路の集積率は18(or24)か月で2倍になるという、有名なムーアの法則。これまでのIT・半導体業界の発展を支えてきたこの法則が、限界を迎えつつあると言われています。デバイスをより小型・省エネ・低価格で社会に提供するためには、半導体集積回路を微細・3次元化していく必要があるのですが、発生する熱量も膨大となるため、熱の影響による性能の低下が懸念されています。U-MAPの提供する新素材は、ムーアの法則を進めるために不可欠な、ブレイクスルーと呼ぶにふさわしい熱ソリューションを提供します。弊社は引き続きU-MAPのさらなる成長のため支援を継続してまいります。
大林 正佳
株式会社U-MAP ウェブサイト
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